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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)92号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

前記当事者間に争いのない審決の理由の要点に徴すれば、審決は、第二引用例にも本件考案のB構成と同様の構成が図示されている点を認めながら、B構成の技術的意義がバンド通しをスラツクス本体及び腰裏地のうちのスラツクス本体側の布地と一緒に縫合した際の縫目を覆い隠す点に存すると認定したうえ、第二引用例はその点の示唆を欠くとして、同引用例と第一引用例とを組合せる点が容易とはいえない旨判断したものであると認められるところ、原告は、審決の取消事由として、右B構成の技術的意義に関する認定の誤りを主張するので、この点について判断する。

1 前記当事者間に争いのない本件考案の要旨及び成立に争いのない甲第七号証の一、二(本件公報)に徴すれば、本件考案は、スラツクスの腰裏地に関し、従来の腰裏地が一枚の生地からなつていたため、これをスラツクスの腰裏に縫着した際はバンド通しの縫目が腰廻り裏面に顕れ、長期間使用すると縫目が摩擦により擦り切れて腰裏地の剥離を招いたり、見苦しかつたりする欠点があつたことから、右欠点を解消することをその主要な目的として考案されたものであることが明らかである。しかして、右甲号各証によれば、考案の詳細の説明の項には、右目的を達成するための構成及びその作用効果に関し、「腰裏地の巾方向上半部を一枚の布地とし、下半部を二枚に分岐せしめて巾方向の断面において逆Y字型となる」(甲第七号証の一の2欄一五行ないし一七行)ように構成し、「………下半部は通常の一枚であれば縫目が出るが、分岐されて二枚になつており、従つてその一方の布地2に縫いつけ他方の布地1にて被覆することにより腰裏面に縫目が出ず、バンド通しの縫いつけの縫目Aが腰裏面に出て見苦しいことが解決される。」(同3欄二五行ないし4欄二行)、「本考案は以上の如く上半部を一枚の布地とし、下半部を分岐して二枚の布地とすることにより、腰裏地として縫いつけた場合にバンド通し裏面の縫目が分岐した二枚の布地の間に隠れて表面に出ることがなく、従来の一枚の布地に比較して縫製後における仕上げが良好で、体裁の良い縫製を行うことが出来ると共に、縫目が露出していないためシヤツ等との摺擦が起るとしても縫目の擦り切れが起らず、腰裏地の剥離による不体裁さも免れる優れた効果を奏する」(同4欄七行ないし一六行)との記載のあることが認められ、右各記載に徴すれば、前記本件考案の主要な目的に関し、したがつて、その主要な作用効果を奏する構成が、A構成から「滑り止め」のための構成であることが明らかな部分を除いた「該布地は腰裏地長手方向に亘り幅方向下半部は二枚の布地に分岐し、幅方向上半部は一体化された一枚の布地となつて幅方向断面逆Y字型となつており」との構成であることは明らかというべきである。

2 他方、本件考案のB構成、すなわち「前記分岐した二枚の布地の被覆する布地側は他方のスラツクス本体縫付側布地より稍長く形成されている」との構成については、前掲甲第七号証の一、二によれば、考案の詳細な説明中に、「この場合、前述の如く、被覆する布地1側を縫いつける布地2側より稍長くすることにより布地1をスラツクス本体に部分的にかがりつけB、腰裏地の固定を確固とする。」(甲第七号証の一の4欄三行ないし六行及び同号証の二の5項)、「しかも、特に本考案においては分岐布地の一方の被覆する布地側を他方より長く形成したことにより該布地端をスラツクス本体に縫付ける操作を容易ならしめ、腰裏地のスラツクス本体への固定をより確固とすることができる利点を有する。」(同号証の二の6項)との記載のあることが認められ、右各記載に徴すれば、B構成は、被覆側の布地をスラツクス本体にかがり付けることにより腰裏地のスラツクス本体への固定をより確固とするとともに、その縫着作業自体を容易にする点に技術的意義を有するものであることは明らかというべく、そうであれば、B構成の技術的意義がバンド通しをスラツクス本体及び腰裏地のうちのスラツクス本体側の布地と一緒に縫合した際の縫目を覆い隠す点に存するとした審決の認定は誤りというほかない。

3 もつとも、被告らは、前記本件考案の主要な作用効果は、A構成とB構成が一体となつて奏されるものである旨主張するが、前記甲第七号証の一、二中にそのような解釈を支持するような記載は全く認められないのみならず(補正に係るB構成の作用効果が「特記」の形で追加されている点も右解釈を裏付け得るものではない。)、腰裏地の長手方向に亘り幅方向下半部を二枚の布地に分岐させ、幅方向上半部を一体化された一枚の布地となしたA構成及び少なくとも被覆側の布地がスラツクス本体側の布地に顕われたバンド通しの縫目を覆い隠せるような長さであれば、腰裏地として縫い付けた場合にバンド通しの裏面の縫目が分岐した二枚の布地の間に隠れて表面に出ることがなくなるのは明らかであつて、更に、被覆側の布地をスラツクス本体側の布地よりも長くしなければ右の点が達成されないと解すべき事情は見当たらない。この点に関し、被告らは、美感上縫目のみならずスラツクス本体側の布地全体を覆う必要があるとか、「被覆」という用語の字義からしても被覆する側の布地が被覆される側の布地よりも長い必要がある旨主張するが、美感上スラツクス本体側の布地全体を覆う必要があるとしても、少なくとも二枚が同じ長さであれば足りることであるし、「被覆」という語の字義を根拠とする点についても、本件考案では被覆の対象はバンド通しの縫目Aであつて(この点は被告らも認めるところである。)、そうである以上、被覆する布が被覆対象たる縫目の位置Aより長ければそれで足りるものであることは前記のとおりであるから、いずれも、B構成が前記本件考案の主要な作用効果の発生に寄与すると解すべき根拠となるものではない。

4 そして、審決は右B構成の技術的意義を誤認し、これを前提として爾後の判断をなしているものであることは前記のとおりである以上、右誤認が審決の結論に影響を及ぼすことも明らかである。

三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編注〕本件考案の要旨は左のとおりである。

スラツクスの腰廻り裏面に当着する細長テープ状の布地であつて、該布地は腰裏地長手方向に亘り幅方向下半部は二枚の布地に分岐し、幅方向上半部は一体化された一枚の布地となつて幅方向断面逆Y字型となつており、かつ、上半部の布地はその一面に長手方向に配設された数条の太番手の糸により凸条の畝を形成していると共に前記分岐した二枚の布地の被覆する布地側は他方のスラツクス本体縫付側布地より稍長く形成されていることを特徴とするスラツクスの腰裏地。

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